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『連載終了! 少年ジャンプ黄金期の舞台裏』(巻来功士著 イースト・プレス)を読んで

 

巻来功士先生、知ってる人は知っていると思います。
今からもう…………そんなに時は経ったのか……30年位前に、週刊少年ジャンプで『メタルK』や『ゴッドサイダー』などを連載していた漫画家です。

そういう私は先生のファンではありません。
それどころか今まで先生の作品を連載開始から完結まで、一本も読み切った事はありません。

『メタルK』は元婚約者に火だるまにされた女性が、溶けると濃硫酸になる皮膚を纏ったサイボーグとなって復讐をするところから始まる物語です。
当時の自分は小学生で、この主人公のヌードシーンに興味を引いたことを覚えています。
しかしその色欲をもってしても、殺戮シーンや皮膚が溶けて機械の身体をさらけ出すなどといった気持ち悪くグロテスクな場面の多さに、完結まで読み切ろうとすることは出来なかったのです。
それなのに、何でこの作品を読んでみようと思ったのでしょうか。

ちょっと前にネットで他の先生の自伝的漫画について少し見ている時に、この作品のレビューを読みました。
単純に先生の名前や作品を前々から知っていたこともありますが、そこそこのヒット作はあり
長年漫画家を続けられるだけの実力がありながら大ヒットはない微妙なところと、
他の書評やこの作品の中で何回も出てくる『一人でできる』というワードに、元々一匹狼的な傾向があり中途半端に終わってしまう危機感を感じている自分への参考になるかもしれないと思ったところからです。


この作品は主人公巻来先生のデビュー前から週刊少年ジャンプの年間契約が修了するまでの話です。
漫画については自分の専門外なんで難ですが、この主人公は表情が豊かで出来事が滑らかに進んでいき青春漫画として面白かったです。
また巻末にある作者と当時の編集者堀江氏との対談は、漫画家と編集者などについての深い見解とても興味深く、漫画に興味がある方は特に読む価値があると思います。

一方、他の方のレビューにもありますが、主人公に限らず登場人物の想いや心境、エピソードをもっと深く掘り下げて表現できていればもっと面白かったと思います。
それぞれの編集者が当時の巻来先生に対してどう思い編集に携わっていたのか。
どうしてすぐに編集者が理不尽に変わるのかも明らかになるのかもしれません。
特に『JOJO』の荒木先生に対して一章に分けて描かれているにも関わらず、対抗心など思いや気持ちは余り表現されておらず、もしかしたら荒木先生に対する様々な想いや葛藤を現在も引きずっているのかもしれません。
連載授賞式で会って以来全然会っていないようですし。
あと意外とシリアスな『善人』『美形』キャラの感情表現は得意じゃないように私には感じました。
 

またこの作品の中で、担当になった編集者がコロコロ変わる度に、「一人で出来るから」というセリフとともに担当から離れるシーンが何度も描かれています。
主人公は一人で作品を作りたい思いもあった一方、「心を一つ」にした編集者と二人三脚で大ヒット作を作りたいという思いもあったようです。
しかし、「心を一つ」にした編集者と長期間二人三脚で作品を描くことが出来ず、孤立無援の孤独感を感じていたこともあったようです。
『メタルK』や『ゴッドサイダー』が当時の週刊ジャンプの方針によって短期間での連載終了にされたことも、その思いに拍車がかかったことでしょう。


週刊ジャンプで大ヒット作を作れなかったのは、

『良い』編集者と協力して長期間にわたって連載が出来なかった。
人との巡り合わせが悪かった。
その一言で片づけてしまえば簡単です。
しかし、その当事者が自分になってしまった場合、人との巡り合わせが悪かった。その一言で片づけて割り切れる物でしょうか。


巻末の対談のなかにありましたが、『ちょっと急いだみたいな漫画になってたんです。多少悩みはあったんですけど、その頃から。』
『なんとなくわかってはいたものの言葉にできなかった』とあります。

本文の中では堀江氏が縦糸をストーリーラインの作成、横糸を演出やキャラクター作成に例え
巻来先生はストーリーテラー縦糸の人で、横糸情報が必要だったことなどを説明することで『言葉にできなかった』物が解りました。

この『なんとなくわかってはいたものの言葉にできなかった』無意識上にあるものを、自分自身で言葉にして具体的に表すことが出来るのでしたらどうだったのでしょうか。
この場合でしたら漫画の制作ですので技術的なことについては書くことが出来ませんが、
『ちょっと急いだみたい』な状態、具体的にはっきりとはしないが何かがあって引っ掛かるような感覚のものを、心理カウンセリングを行う時もそうですが、まずはじっくり味ってもらうとそこから色々な思いや気持ちが出てくると思います。
それらから感じるものや感情を味わってもらいます。
もしそれらが解らないのでしたら、この引っ掛かる感覚に短い言葉を色々当てはめフィットするかどうか確かめてみて、具体的な言葉になったものを感情で感じてもらいます。
そしたらその感情をますます感じさせる行動か、あるいはそれをなくし別の感情を感じさせる行動か、どう行動し対策をとればいいのか考えることができると思います。

自分に足らない物は無意識上の自分が気付いているのかもしれないのです。
それに関しましては、私にも土壇場になってそれに気付き、具体化するとこれらは自分で何とかしなくてはならない重要な問題点だったような経験が何度もあります。
編集者など協力となる人がいなくても、多少ながらもそれらをカバーするものになるのではないのでしょうか。


……話はそれてしまいましたが、巻来先生がこれから先どのような形で作品を作られるかは解りません。
だけど、縦糸はもちろん、横糸もしっかり紡がれた形となった作品を読んでみたいと思いました。

 

グロは駄目だけど(苦笑)